はじめに閲覧されるべきもの

大切なことを書いたり、書かなかったりします。

バレンタインデーは終わらない

冬の空気は痛いくらいにキンと張り詰めていて
車の音も心なしか静かに聞こえる。
僕は目覚めるといつものようにゆっくりとベットから降り
コーヒーメーカーの電源とオーディオのスイッチを無造作に押した。
部屋の中に朝に似合う軽快なジャズが鳴り響き
徐々にコーヒーの香りが充満していく。


シャワーを浴びるうちに少しずつ頭が覚醒していくのが知覚できた。
タオルで頭を拭きながら
煎れたばかりの熱いコーヒーを飲み干し
煙草に火をつけた。

さあ、一日の始まりだ。


眼鏡を外して、コンタクトレンズを入れた後
歯を磨いて、身仕度を整える。
さあ、外に出かけようと玄関のドアノブに手をかけると
ドアの向こうから声が。


「……ダイスケ(仮名)さん早く出てこないかなぁ……」

「私が一番最初にチョコを渡すのよ!」

「キーッ!何よ!この泥棒猫!」


という争うような黄色い声が聞こえてきた。
そうか、今日は2月14日、バレンタインデーか。


まったくもって面倒な日だ。
どうやら玄関からは外に出られそうにない。
僕は窓を開け、仕方なくベランダから外に出ることにした。


ちなみにうちは7階ですけど。


遺書はなかった。


警察当局はこの事件を『チョコを貰えなかったことを動機にした自殺』と断定。


「元々妄想がちな不思議な人でした」
「あのとき私がチョコをあげていれば…」
と近隣住民たちは口々に話している。


バレンタインデーにチョコを貰えなくての自殺は極めて異例。
某団体からはこの2月14日にチョコレートをあげるという風習に疑問を投げかける声も。


尚、彼の交友関係を調査したところ、
マイミク数は0人だった。

社会の歪みが生んだ悲しい事件と言える。