はじめに閲覧されるべきもの

大切なことを書いたり、書かなかったりします。

みやひろ


父さんがいつも連れて行ってくれたのは
古いこじんまりとしたラーメン屋さん。


のれんをくぐった狭い店内には
いわゆる昔ながらの醤油ラーメンの香り。
厨房の親父さんが見えるカウンター席と
女将さんが注文を聞きにくる小さな赤いテーブル席。


父さんが注文していたのはいつもチャーシュー麺で。
僕は小さな茶碗に母さんのラーメンを分けてもらって半分こ。


父さんがズルズルとチャーシュー麺を食べる姿はかっこ良かった。
500円でお釣りがくるラーメンと違って
父さんの食べていた700円のチャーシュー麺は神聖な存在だった。


いつか僕も一人で一人前のラーメンを食べてみたい、と思ってた。
父さんみたいにズルズルと音を立てて
かっこ良くチャーシュー麺を食べてみたい、と思ってた。
ちっぽけな夢ばかりを胸にたくさん抱えて
僕は早く大人になりたい、と願ってた。


だけど


あのとき永遠にも感じてた一学期は
今思えば本当に儚い数ヶ月で。


僕が子どもでいられる時間は
実はそれほど長くはなくて。


"僕と父さん"の関係だった期間は
人生の中の本当に僅かな数年だけで。


父さん。


僕は今、東京にいます。


僕もすっかり大人になって
一人で一杯のラーメンも食べれるようになりました。


何も解らず知らない都会に出てきて
少しずつ色んな人のお世話になりながら
何とか自分の食いぶちくらいは
お金を稼げるようになりました。


今でも僕はあのときのラーメンの味を
鮮明に覚えています。
湯気が上がるスープ。
ちぢれ麺の香り。
しょっぱい醤油の味。


父さん。


正月くらいは故郷に帰って
あのラーメン屋さんを覗いてみようと思います。


今、僕の目の前にあるラーメンは
あの頃とは違って
ヤサイマシマシアブラカラメだけれど。